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いたのか、今でも思い出せません。それから随分と悩みましたがどうすることもできませんでした。
丁度そのころ、NHKの教育テレビで、東京の大塚ろう学校で幼児向けの指導の番組がありました。今でもはっきりと覚えております。それは松沢豪先生の素晴らしい笑顔と慈愛に満ちたご指導振りです。早速、テレビを見ながら、いろいろの教材を作って掲子と勉強したり、遊んだりしました。掲子も大変よろこんで熱心に励んでくれました。今でも親子ともども楽しく過ごしたことが、よい思い出となっております。
五歳となり入園の時期になりました。三月の始め掲子を連れて山口ろう学校に行きましたが生憎、学校は休みで一人聴能指導の先生がおり、少しお話しを聞き幼稚園の教室を外から眺めて帰りました。そのころから掲子の入園準備をしました。ろう学校は遠く離れた山口市の町外れの山麓にあり、家が近い子は通学、遠い人は園生活です。掲子の場合は入園となります。
衣服の脱着の練習、ボタンやファスナーのかけ方、前後の見分け方、毎日練習です。小さいながらも人の手を余りわずらわさないように言って聞かせました。そして、別れのときのことを思い掲子に、「もうすぐ幼稚園ね、嬉しいね、楽しいね」「きれいなお布団、洋服も準備したね、友だちもたくさんできるよ、淋しくないね、お姉さんもたくさんいるよ」と励ましながら、私の気持ちは複雑でした。
間もなく四月八日入学式の日が来ました。その日は早く起き朝食をすませて支度をし、バスに乗り、タクシーに乗って学校に着き校門をくぐりました。身の引き締まる思いです。「五歳の

 

 

 

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